2012
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
今日も二匹の元に一冊の絵本
題名は「ニジミサイン」
それはある小さな村でのこと
その村の兎達は皆、いつも首に掲示板をぶら下げていて
誰かと挨拶をするときにその掲示板にサインを書き合うのがルールになっていました
皆、このルールのおかげで名前を覚えられたり、仲良くなるのも早くなって
とっても幸せそうに暮らしていました
その村に住む村一番美しい兎、クーアの元には
毎日沢山の兎が挨拶をしに来てくれて
掲示板はいつも沢山のサインでいっぱいでした
そんな姿を遠くから見つめる兎がいました
彼の名前はアールと言います
アールはとってもクーアの事が大好きで
だけど、遠くから眺めているだけでとっても満足
緊張して傍で喋られなくて
彼女を困らせたりしたら、と思うだけで
今のままのが幸せだと思っていたのです
その日も彼女が掲示板をいっぱいにして
家の中に帰るまで、その姿を眺めては
彼女の姿に見とれていました
「はぁ、本当に綺麗だなー。きっと皆に書いている字も綺麗なんだろうなー」
頭の中で彼女の字を想像して、ぼーっと空を眺めて歩いていると
ごつん
前を良く見ないで歩いていたのでアールは彼女の家から帰る兎にぶつかってしまいました
「いててて、ちゃんと前見て歩いてくれよな、もう」
ぶつかった兎は丸くもったりとしたお尻の泥を払いながら言いました
「ごめんなさい、うっかりしていて。あ、掲示板が」
転んだ拍子にお互いの掲示板が首からすぽっと落ちてしまい
掲示板はばらばらになってしまいました
なんだかとっても申し訳ない気持ちになって
アールは急いで掲示板をかき集めると
ごめんなさい、と頭を下げてその場を逃げるように去っていきました
おうちに戻り、ばらばらになった掲示板を寄せ集めて
少しづつ整理をしていると
一枚だけ見知らぬ紙が挟まっていました
多分間違えて持って帰って来てしまったんだと
気の弱いアールの頭の中はもうパニック状態で
あっちにうろうろ
こっちにうろうろ
「あ、そうだ!掲示板にはサインが書いてあるんだ、それさえ分かれば返せるぞ」
掲示板にはしっかりサインが書いてあって
下には挨拶した兎たちのサインがいくつか書いてありました
結構沢山のサインが載っていて
これならちょっと聞けばすぐに見つかると
アールはほっと胸をなでおろしました
自分の知り合いが載っているのではと目線を下に下ろしていくと
そこには彼女のサインがあったのです
「クーア?」
心臓が一瞬止まった後
今度は、物凄いスピードで急発進しました
ドクドク ドドクン
ドドクン ドックン
想像していたよりもずっと、綺麗で柔らかい字で書かれたサインを見て
アールの心は幸せの絶頂でした
でも、これはあの兎のもの
彼だって大事にしているに違いない
でも
いざ目の前にしてしまうと、それが欲しくて仕方なくなって
アールはいてもたってもいられなくなりました
「あ、そうだ。これなら誰にも迷惑はかからない」
思いついたのは見つけたクーアのサインを
自分の掲示板に写し書くことでした
昨日の掲示板にそっとクーアのサインを下にひくと
そっと、そのサインを写し書きました
出来上がった掲示板を見て
アールはふと不安になりました
もし、昨日彼女の近くにいた兎達に見つかって
書いてもらってないと責められたらどうしよう、と
そこでアールは、その前日も、その前日も、と
ここ何日間の掲示板にサインを写しました
これでもう大丈夫、と一安心して眠りにつきました
翌朝、掲示板の持ち主を探す為に外に出ると
クーアの家に集まった兎の近くで彼を見つけました
アールが彼に声をかけようと近づくと
沢山の兎達にもみくちゃにされて
持っていた掲示板を、また落としてしまいました
拾い上げた兎がそれを見つけて返そうとした時
「お前?こんなに前から何回も。いつサイン書いてもらいにきてたんだ?」
前から何度も来ていた兎はとっても不思議そうにアールの顔を覗き込みました
適当ないいわけをしてやり過ごそうとアールは、前からいたよ、と答えると
「じゃあ、クーアさんの掲示板にもお前のサインがあるんだな?」
そうでした
挨拶したらお互いの掲示板にサインが残るので
自分のところだけにサインがあるというのは不自然で
嘘をついたのがばれてしまいます
もうおしまいだ、そう思ったときに、周りの皆が一瞬ざわめくと
目の前にクーアが立っていました
「サイン書いてありますよ。ね?アールさん」
掲示板にはアールの字でサインも書いてあります
何かの聞き間違いかと耳を疑いましたが
目の前にはあれほど遠くにいたクーアがいたのです
アールを疑った兎も、クーアが言うならと引き下がり
無事、その場のいざこざはおしまいを迎えました
皆が帰った後
アールとクーアの二匹が残りました
アールはどうして自分のサインを知っているのか尋ねると
クーアはクスクスっと笑うと、部屋の奥から一匹の兎を呼びました
出てきた兎はアールが昨日ぶつかった兎でした
「これ、わたしの弟なのよ。」
クーアは、弟の頭を撫でながら挨拶をさせました
アールは持っていた彼の掲示板を差し出すと
弟も一枚の掲示板を差し出しました
それは自分のサインの書かれた掲示板でした
「ずっと前から遠くでいつも会いに来てくれてたでしょ?」
クーアは前からアールの事を知っていて
外でサインを書くたびに、来ているか見ていてくれたのです
弟が帰って来て、知らない人の掲示板を間違えてもらってきた、と言った時に
ふと、アールの事を思い出して、弟にぶつかった相手の事を聞いたそうです
そして、それがいつも会いにきてくれたアールの事だとわかり
自分の掲示板に写し書きしたのです
そう、アールがしたのと同じように
自分の事を知っていたのが
恥ずかしくって、嬉しくって
アールはあたふたしていると
クーアが掲示板を差し出して言いました
「今までも、これからも、わたし達友達。さ、サインを書いて」
アールが書いたサインの上に嬉し涙が一粒ポロリ
滲んだ文字の最初のサイン
クーアはそれを見て
「誰にも真似できないサインになったね」
と微笑みました
パタン
「ふふふ、なんか可愛いお話」
白い兎はクスクス笑いました
黒い兎は納得のいかない顔で
「なんか、意気地のない兎だなー。初めから声かければよかったんじゃないの?」
と不満気に言葉を零しました
読み終わった絵本を棚に戻し帰ってくると
白い兎がなにやら眺めて、またクスクス笑っているので
後ろから何を見ているのか覗くと
それは二匹が出会ったときの写真でした
「ねぇ?覚えてる?このときの事」
黒い兎は覚えてないと誤魔化したけれど
白い兎はしっかり覚えています
ある集まりの最中、黒い兎がなかなか周りに馴染めなくて
なんとかやり過ごそうと寝た振りをしていたところを
白い兎にまんまと見抜かれて
白い兎は周りの友達にカメラを渡して
黒い兎の肩に寄りかかって一緒に寝た振り
照れて真っ赤なほっぺたは隠すことが出来なくて
その写真の二匹は眠っているように見えて
黒い兎のほっぺただけ真っ赤
それはまるで
クーアとアールの様
二匹もわたし達みたいに幸せでありますように
白い兎は心の中でお願いしました、とさ
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
二匹はいつも一緒
今日も二匹の元に一冊の絵本
題名は「ニジミサイン」
それはある小さな村でのこと
その村の兎達は皆、いつも首に掲示板をぶら下げていて
誰かと挨拶をするときにその掲示板にサインを書き合うのがルールになっていました
皆、このルールのおかげで名前を覚えられたり、仲良くなるのも早くなって
とっても幸せそうに暮らしていました
その村に住む村一番美しい兎、クーアの元には
毎日沢山の兎が挨拶をしに来てくれて
掲示板はいつも沢山のサインでいっぱいでした
そんな姿を遠くから見つめる兎がいました
彼の名前はアールと言います
アールはとってもクーアの事が大好きで
だけど、遠くから眺めているだけでとっても満足
緊張して傍で喋られなくて
彼女を困らせたりしたら、と思うだけで
今のままのが幸せだと思っていたのです
その日も彼女が掲示板をいっぱいにして
家の中に帰るまで、その姿を眺めては
彼女の姿に見とれていました
「はぁ、本当に綺麗だなー。きっと皆に書いている字も綺麗なんだろうなー」
頭の中で彼女の字を想像して、ぼーっと空を眺めて歩いていると
ごつん
前を良く見ないで歩いていたのでアールは彼女の家から帰る兎にぶつかってしまいました
「いててて、ちゃんと前見て歩いてくれよな、もう」
ぶつかった兎は丸くもったりとしたお尻の泥を払いながら言いました
「ごめんなさい、うっかりしていて。あ、掲示板が」
転んだ拍子にお互いの掲示板が首からすぽっと落ちてしまい
掲示板はばらばらになってしまいました
なんだかとっても申し訳ない気持ちになって
アールは急いで掲示板をかき集めると
ごめんなさい、と頭を下げてその場を逃げるように去っていきました
おうちに戻り、ばらばらになった掲示板を寄せ集めて
少しづつ整理をしていると
一枚だけ見知らぬ紙が挟まっていました
多分間違えて持って帰って来てしまったんだと
気の弱いアールの頭の中はもうパニック状態で
あっちにうろうろ
こっちにうろうろ
「あ、そうだ!掲示板にはサインが書いてあるんだ、それさえ分かれば返せるぞ」
掲示板にはしっかりサインが書いてあって
下には挨拶した兎たちのサインがいくつか書いてありました
結構沢山のサインが載っていて
これならちょっと聞けばすぐに見つかると
アールはほっと胸をなでおろしました
自分の知り合いが載っているのではと目線を下に下ろしていくと
そこには彼女のサインがあったのです
「クーア?」
心臓が一瞬止まった後
今度は、物凄いスピードで急発進しました
ドクドク ドドクン
ドドクン ドックン
想像していたよりもずっと、綺麗で柔らかい字で書かれたサインを見て
アールの心は幸せの絶頂でした
でも、これはあの兎のもの
彼だって大事にしているに違いない
でも
いざ目の前にしてしまうと、それが欲しくて仕方なくなって
アールはいてもたってもいられなくなりました
「あ、そうだ。これなら誰にも迷惑はかからない」
思いついたのは見つけたクーアのサインを
自分の掲示板に写し書くことでした
昨日の掲示板にそっとクーアのサインを下にひくと
そっと、そのサインを写し書きました
出来上がった掲示板を見て
アールはふと不安になりました
もし、昨日彼女の近くにいた兎達に見つかって
書いてもらってないと責められたらどうしよう、と
そこでアールは、その前日も、その前日も、と
ここ何日間の掲示板にサインを写しました
これでもう大丈夫、と一安心して眠りにつきました
翌朝、掲示板の持ち主を探す為に外に出ると
クーアの家に集まった兎の近くで彼を見つけました
アールが彼に声をかけようと近づくと
沢山の兎達にもみくちゃにされて
持っていた掲示板を、また落としてしまいました
拾い上げた兎がそれを見つけて返そうとした時
「お前?こんなに前から何回も。いつサイン書いてもらいにきてたんだ?」
前から何度も来ていた兎はとっても不思議そうにアールの顔を覗き込みました
適当ないいわけをしてやり過ごそうとアールは、前からいたよ、と答えると
「じゃあ、クーアさんの掲示板にもお前のサインがあるんだな?」
そうでした
挨拶したらお互いの掲示板にサインが残るので
自分のところだけにサインがあるというのは不自然で
嘘をついたのがばれてしまいます
もうおしまいだ、そう思ったときに、周りの皆が一瞬ざわめくと
目の前にクーアが立っていました
「サイン書いてありますよ。ね?アールさん」
掲示板にはアールの字でサインも書いてあります
何かの聞き間違いかと耳を疑いましたが
目の前にはあれほど遠くにいたクーアがいたのです
アールを疑った兎も、クーアが言うならと引き下がり
無事、その場のいざこざはおしまいを迎えました
皆が帰った後
アールとクーアの二匹が残りました
アールはどうして自分のサインを知っているのか尋ねると
クーアはクスクスっと笑うと、部屋の奥から一匹の兎を呼びました
出てきた兎はアールが昨日ぶつかった兎でした
「これ、わたしの弟なのよ。」
クーアは、弟の頭を撫でながら挨拶をさせました
アールは持っていた彼の掲示板を差し出すと
弟も一枚の掲示板を差し出しました
それは自分のサインの書かれた掲示板でした
「ずっと前から遠くでいつも会いに来てくれてたでしょ?」
クーアは前からアールの事を知っていて
外でサインを書くたびに、来ているか見ていてくれたのです
弟が帰って来て、知らない人の掲示板を間違えてもらってきた、と言った時に
ふと、アールの事を思い出して、弟にぶつかった相手の事を聞いたそうです
そして、それがいつも会いにきてくれたアールの事だとわかり
自分の掲示板に写し書きしたのです
そう、アールがしたのと同じように
自分の事を知っていたのが
恥ずかしくって、嬉しくって
アールはあたふたしていると
クーアが掲示板を差し出して言いました
「今までも、これからも、わたし達友達。さ、サインを書いて」
アールが書いたサインの上に嬉し涙が一粒ポロリ
滲んだ文字の最初のサイン
クーアはそれを見て
「誰にも真似できないサインになったね」
と微笑みました
パタン
「ふふふ、なんか可愛いお話」
白い兎はクスクス笑いました
黒い兎は納得のいかない顔で
「なんか、意気地のない兎だなー。初めから声かければよかったんじゃないの?」
と不満気に言葉を零しました
読み終わった絵本を棚に戻し帰ってくると
白い兎がなにやら眺めて、またクスクス笑っているので
後ろから何を見ているのか覗くと
それは二匹が出会ったときの写真でした
「ねぇ?覚えてる?このときの事」
黒い兎は覚えてないと誤魔化したけれど
白い兎はしっかり覚えています
ある集まりの最中、黒い兎がなかなか周りに馴染めなくて
なんとかやり過ごそうと寝た振りをしていたところを
白い兎にまんまと見抜かれて
白い兎は周りの友達にカメラを渡して
黒い兎の肩に寄りかかって一緒に寝た振り
照れて真っ赤なほっぺたは隠すことが出来なくて
その写真の二匹は眠っているように見えて
黒い兎のほっぺただけ真っ赤
それはまるで
クーアとアールの様
二匹もわたし達みたいに幸せでありますように
白い兎は心の中でお願いしました、とさ
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
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2012
白い兎と黒い兎。
二匹はいつも一緒。
そんな二匹のもとに一冊の絵本が届きました。
その絵本の題名は「アヤツリー」
絵本に登場するのは一本の大きな木。
その木に近づくものに根を絡ませて、
自由を奪うのですが。
最後は操るのに夢中になり過ぎて、その木は段々と痩せこけて。
悪者の木はやがて枯れてしまう。
そんなお話でした。
黒い兎は言いました。「木が枯れて皆が助かって良かった。」
白い兎は黙ったまんま。
何もしてない黒い兎は首をかしげました。
それからというものです。
「これここおいて置く?」
「今日のご飯は何?」
「なんかとってくるものある?」
黒い兎は聞きました。
だけど、返事はありません。
ただふわふわの白い指で。
黒い兎に指差して、あれこれそれ。
黒い兎はそれを見て、
どうしたのだろうと思いました。
何か悪い事したのかな。
悲しませるような事言ったかな。
黒い兎の頭の中は、もうぐっちゃぐちゃで大変です。
そうしている間に夜になりテーブルにはいつものご飯。
無言で座る白い兎。
無言で座る黒い兎。
黒い兎は言いました。「どうして喋ってくれないの?」
だけど、白い兎は無言のまんま。
二匹はただただ、もくもくと。
出された料理を、もぐもぐと。
美味しいはずの料理なのに。
大好きな人参のシチューなのに。
なんだかとっても味気無いのです。
すると、白い兎が言いました。「もう限界。こんな辛いの耐えらんない」
訳が分からないのは黒い兎。
かける言葉も見当たりません。
白い兎が持ち出したのはアヤツリーの絵本。
白い兎は言いました。「この木は悪者なんかじゃないわ。ただきっと寂しかったのよ」
その後白い兎が言うには
この木は本当は友達が欲しかっただけ。
でも言葉が話せないから。
その場から動けもしないし。
だから根っこを絡ませて自分の側にいて欲しかった。
何より大事だったから、自分の事も忘れて。
そして、枯れて朽ちるまで。
喜びも悲しみも楽しみも寂しさも。
伝わらなければ意味が無い。
言葉にしないと伝わらない。
白い兎はそう思ったのでした。
白い兎は言いました。「ごめんね」
黒い兎は立ち上がり、白い兎のそばに寄り。
白く震えるその肩に触れ。
頭をそっと撫でました。
おでこにそっとキスをして。
「よく頑張ったね」
仲直りして食べはじめた人参のシチュー。
それはちょっぴりしょっぱくて、涙の味がしたそうです。
その夜、二匹が眠るとき。
黒い兎は何も言わずに白い兎の手をとってにこっと笑いました、言葉がなくても伝わる物だってあるんだよって。
だから安心してねって。
白い兎と黒い兎。
二匹はいつも一緒。
仲良しなのです。
二匹はいつも一緒。
そんな二匹のもとに一冊の絵本が届きました。
その絵本の題名は「アヤツリー」
絵本に登場するのは一本の大きな木。
その木に近づくものに根を絡ませて、
自由を奪うのですが。
最後は操るのに夢中になり過ぎて、その木は段々と痩せこけて。
悪者の木はやがて枯れてしまう。
そんなお話でした。
黒い兎は言いました。「木が枯れて皆が助かって良かった。」
白い兎は黙ったまんま。
何もしてない黒い兎は首をかしげました。
それからというものです。
「これここおいて置く?」
「今日のご飯は何?」
「なんかとってくるものある?」
黒い兎は聞きました。
だけど、返事はありません。
ただふわふわの白い指で。
黒い兎に指差して、あれこれそれ。
黒い兎はそれを見て、
どうしたのだろうと思いました。
何か悪い事したのかな。
悲しませるような事言ったかな。
黒い兎の頭の中は、もうぐっちゃぐちゃで大変です。
そうしている間に夜になりテーブルにはいつものご飯。
無言で座る白い兎。
無言で座る黒い兎。
黒い兎は言いました。「どうして喋ってくれないの?」
だけど、白い兎は無言のまんま。
二匹はただただ、もくもくと。
出された料理を、もぐもぐと。
美味しいはずの料理なのに。
大好きな人参のシチューなのに。
なんだかとっても味気無いのです。
すると、白い兎が言いました。「もう限界。こんな辛いの耐えらんない」
訳が分からないのは黒い兎。
かける言葉も見当たりません。
白い兎が持ち出したのはアヤツリーの絵本。
白い兎は言いました。「この木は悪者なんかじゃないわ。ただきっと寂しかったのよ」
その後白い兎が言うには
この木は本当は友達が欲しかっただけ。
でも言葉が話せないから。
その場から動けもしないし。
だから根っこを絡ませて自分の側にいて欲しかった。
何より大事だったから、自分の事も忘れて。
そして、枯れて朽ちるまで。
喜びも悲しみも楽しみも寂しさも。
伝わらなければ意味が無い。
言葉にしないと伝わらない。
白い兎はそう思ったのでした。
白い兎は言いました。「ごめんね」
黒い兎は立ち上がり、白い兎のそばに寄り。
白く震えるその肩に触れ。
頭をそっと撫でました。
おでこにそっとキスをして。
「よく頑張ったね」
仲直りして食べはじめた人参のシチュー。
それはちょっぴりしょっぱくて、涙の味がしたそうです。
その夜、二匹が眠るとき。
黒い兎は何も言わずに白い兎の手をとってにこっと笑いました、言葉がなくても伝わる物だってあるんだよって。
だから安心してねって。
白い兎と黒い兎。
二匹はいつも一緒。
仲良しなのです。
2012
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
そんな二匹に届いた絵本
題名は「オウジノテジョウ」
ある所に乱暴者な
兎の王子様がいました
花を折ったり、皿を割ったり
村の者を脅かしたり
それはもうひどいありさまでした
とうとう困った王様は
どうにかならないものか考えて
村の皆にある提案をしました
「王子を大人しくした者
その者の願いを一つ叶える」
村の者にこの話がひろまり
村中大騒ぎ
その日の夜が終わると同時に
我こそはという者達でお城は
あふれかえっていました
王様は一安心
これだけの人数がいれば
誰か1人くらい
王子を大人しくできるはず
だけど、王子は鼻で笑うと
次から次へと来るもの達を
めちゃくちゃに暴れて
追い返してしまいました
最初は勢いのあった村の者達も
自信を無くし帰ってしまいました
そして残ったのは三匹の兎でした
一匹は村一番の喧嘩の強い兎、ファイ
一匹は村一番頭がよい兎、マート
一匹は村一番の優しい女の子兎、テン
まずはファイが名乗り出て来ました
王子を指差し決闘を申し込んだのです
大きな体のファイに比べるといくらか
王子の体は小さく
村の者達もこれなら勝てるだろうと
決闘を眺めていましたが
ファイが飛びかかると同時に
王子はスイッチを押しました
するとファイの立っている場所が
ズドーン
落とし穴になり、ファイは一瞬の内に
穴のそこに落とされてしまいました
王子はその穴めがけて石を投げ込み
ファイが降参するまでぶつけました
こうしてファイは負けてしまい
最後は気を失ってしまいました
次にマートが王子に立ち向かいました
マートは暴力では叶わないので
運試しで勝負を挑みました
マートがどちらかの手に石を隠すので
どちらの手に石があるか当てる
ルールを伝えるとマートは石を握り
後ろで石を混ぜ始めました
マートはその時ばれない様に
石をそっとポケットにしまい
手を出した時にはどちらの手にも
石がない状態にしたのです
これでどちらを選んでも手に石は無く
王子は負けを認めることになる
何も知らない王子は出て来た手を見て
しばらく考えるとポンっと閃いた様に
ニヤッと笑うと、マートの両手を
思い切り蹴り上げました
痛みに耐えれず手を広げると
王子はその両手を見て
「どちらにも入ってない、だな?」
と答えました
こうして卑怯な王子のやり方で
マートは負けを認めることに
こうして残ったのはテンだけに
村の皆はテンが挑むのを止めました
女の子が敵う相手じゃないと
でも、テンは大丈夫、と皆に言うと
王子にある提案をしました
これから私と王子に手錠をかけて
どちらが先に根をあげるか
我慢比べをしませんか、と
こうして王子の腕とテンの腕に
手錠がはまり
我慢比べが始まりました
最初の内は早く終わらせようと
王子はやたら腕を振り回し
その度にテンは引っ張られ
転んだままさらに引っ張られたり
それはもう散々でした
ですが、テンは泣いたりしないで
王子の横暴に耐えていました
そんなある日、手錠の鎖が
何かの拍子に引っかかり
王子はドテンと転びました
よく見ると膝から血が出ています
あいたたたと苦い顔をしていると
テンがそこにやって来て
持っていたハンカチを膝に当て
血を拭いてあげました
王子は何のつもりだと怒鳴りましたが
テンはニコっと笑い
ばい菌が入ったら大変だもん、と
その日を境に王子はどうしてなかなか
調子の悪い悪戯ばかり
早く諦めさせようと思っても
なんだか心を締め付けられて
中途半端な結果ばかりに
それに加えて自分が怪我する度
助けてくれるテンに
もやもやと感じたことのない
不思議な気持ちになりました
だけど強がりな王子は素直になれず
相変わらず村の皆を困らせたり
花を折ったり、畑を荒らしたり
悲しそうな顔をするテンを見る度
後ろめたい気持ちを隠しては
わっはっはと笑って見せました
そんなある夜中、王子が目を覚ますと
外がなんだか騒がしいのです
なんのつもりだと窓の外を覗くと
そこには耐えかねた村の皆が
各々の武器を手に迫って来ます
これは困ったと王子は
テンを起こし裏口から逃げ出しました
手錠で半ば引っ張られる様なテン
どれだけ走ったでしょうか?
大きな木の下で息を切らす二匹の兎
王子は走ったせいで傷だらけ
するとテンが手当をしてくれました
あの時と同じ様に、優しく温かく
自分だって怪我してるのに
なんて自分は情けないんだろう
ありがとう、言わなくちゃ
そう思った時
「いたぞ!あそこだ!」
と言う声と共に村の者たちが
あっという間に囲まれていました
皆の怒りはとても激しくて
傷だらけのテンを見ると
さらにその怒りは大きくなりました
今にも飛び掛られそうな空気の中
「負けだ、俺の負けだ」
ついに、王子は負けを認めたのです
そして、自分を許してくれなくても
憎み続けても構わないから
せめて手錠を外すまで
それまで暴力を振るわないでくれと
テンを傷つけたくないんだと
涙ながらにお願いしました
村の皆も確かにテンの事を考えると
今石を投げたりは出来ないと思い
王子から離れました
王子は振り向いてテンを見ました
するとテンが言いました
「良かった、王子様、変われたね」
そう言ったと思うと
膝から崩れ落ちる様に
テンはその場に倒れ込みました
王子は間一髪受け止めて
はっとしました
テンの手錠が既に外れているのです
鍵なんか無いはず
あれだけ突然飛び出したのだから
テンの腕を見ると
その腕はとても細く
気付けば最初から手錠なんか
はまっていなかったんじゃないのか
じゃあ
じゃあなんで
怪我なんかする必要ないじゃないか
引っ張られたり
転んだり
今だってこんなに傷だらけになって
「王子様?お願い、聞いてくれる?」
テンが途切れ途切れになりながら
その目はまっすぐに王子を見つめて
こくこく、頷く王子
テンはカバンの中から
一枚の紙を出して
王子に渡しました
そしてにっこり、笑うと
ねむる様に目を閉じました
王子は言葉を無くし
その場に伏せると
わんわん泣きました
殺してくれ、と頼み
ありがとう、すら言えなかった事を
死ぬほど後悔しました
その姿を見た皆も辛くなり
その場を去りました
涙でぼやける視界に
写ったまる文字
テンの書いたお願いは
*
皆と仲良くするのが怖かったら
大声で叫んで欲しい。
すぐ隣に居るんだって
知らせて欲しい。
震えた体で誰かと抱き合って
1人じゃないと
教えてもらって欲しい。
すぐに笑えなくたっていい。
だって、ずっとその体で生きてきたんでしょ?
なら平気、だからこそ平気。
*
その日を境に王子は変わり
テンに言えなかったありがとうと
テンのお願いを守るために
誰よりも優しい王子様になりました
その右腕には
外される事なく
相手のない片方を垂らした
手錠をぶらさげて
ぱたん。
黒い兎は言いました
「手錠、外れてたんだね。それも最初から。なんだか切ない。」
白い兎も頷くと最後のページの
片方が垂れ下がり
片腕にだけはめられた手錠を眺めて
王子様の気持ちを考えました
1人だけの戦いみたいにしたくなくて
でも約束なんてものにしたら
まるでその瞬間最後が訪れるみたい
だから、教わった優しくする事は
まだここにあるよ、って
何度だって呼ぶんだ、って
最後なんてこない様に
この本みたいに手錠をしたら
どんなに大変だろうと二匹は話し
試しに紐で黒い兎の腕を結び
自分の腕は持つだけで結ばないで
繋がれてみました
どこに行くにもお互いに
動かないといけない
トイレだって食事だって
何から何まで一緒で、せーので
それに意外にも白い兎の
持っているだけだと
気が抜けず大変
ものの一二時間で
二匹はヘトヘトに
白い兎はあまりの苦労に
疲れてしまい眠くなりました
持っていた紐を離すと
「疲れちゃったね、おしまいにして寝よう」
と布団に向かいました
白い兎が潜るに続いて
黒い兎も布団の中へ
白い兎が黒い兎の手に
紐が付いたままなのに気付き
もう外していいんだよ?と言いました
すると黒い兎はその紐の片方を
白い兎の腕に結びつけました
白い兎は訳が分からず
どうしたのか聞くと
たった一言
「終わりまで白い兎といたい。」
ああ、きっと王子様の様に
1人になりたくなかったんだなと
白い兎は思わずふふっと笑うと
その手をぎゅっと握りました
早すぎる世界で
はぐれないように
何を引き換えにしても
ずっと一緒
白い兎と黒い兎
二匹を結ぶ、真っ赤な紐
二匹はいつも一緒
そんな二匹に届いた絵本
題名は「オウジノテジョウ」
ある所に乱暴者な
兎の王子様がいました
花を折ったり、皿を割ったり
村の者を脅かしたり
それはもうひどいありさまでした
とうとう困った王様は
どうにかならないものか考えて
村の皆にある提案をしました
「王子を大人しくした者
その者の願いを一つ叶える」
村の者にこの話がひろまり
村中大騒ぎ
その日の夜が終わると同時に
我こそはという者達でお城は
あふれかえっていました
王様は一安心
これだけの人数がいれば
誰か1人くらい
王子を大人しくできるはず
だけど、王子は鼻で笑うと
次から次へと来るもの達を
めちゃくちゃに暴れて
追い返してしまいました
最初は勢いのあった村の者達も
自信を無くし帰ってしまいました
そして残ったのは三匹の兎でした
一匹は村一番の喧嘩の強い兎、ファイ
一匹は村一番頭がよい兎、マート
一匹は村一番の優しい女の子兎、テン
まずはファイが名乗り出て来ました
王子を指差し決闘を申し込んだのです
大きな体のファイに比べるといくらか
王子の体は小さく
村の者達もこれなら勝てるだろうと
決闘を眺めていましたが
ファイが飛びかかると同時に
王子はスイッチを押しました
するとファイの立っている場所が
ズドーン
落とし穴になり、ファイは一瞬の内に
穴のそこに落とされてしまいました
王子はその穴めがけて石を投げ込み
ファイが降参するまでぶつけました
こうしてファイは負けてしまい
最後は気を失ってしまいました
次にマートが王子に立ち向かいました
マートは暴力では叶わないので
運試しで勝負を挑みました
マートがどちらかの手に石を隠すので
どちらの手に石があるか当てる
ルールを伝えるとマートは石を握り
後ろで石を混ぜ始めました
マートはその時ばれない様に
石をそっとポケットにしまい
手を出した時にはどちらの手にも
石がない状態にしたのです
これでどちらを選んでも手に石は無く
王子は負けを認めることになる
何も知らない王子は出て来た手を見て
しばらく考えるとポンっと閃いた様に
ニヤッと笑うと、マートの両手を
思い切り蹴り上げました
痛みに耐えれず手を広げると
王子はその両手を見て
「どちらにも入ってない、だな?」
と答えました
こうして卑怯な王子のやり方で
マートは負けを認めることに
こうして残ったのはテンだけに
村の皆はテンが挑むのを止めました
女の子が敵う相手じゃないと
でも、テンは大丈夫、と皆に言うと
王子にある提案をしました
これから私と王子に手錠をかけて
どちらが先に根をあげるか
我慢比べをしませんか、と
こうして王子の腕とテンの腕に
手錠がはまり
我慢比べが始まりました
最初の内は早く終わらせようと
王子はやたら腕を振り回し
その度にテンは引っ張られ
転んだままさらに引っ張られたり
それはもう散々でした
ですが、テンは泣いたりしないで
王子の横暴に耐えていました
そんなある日、手錠の鎖が
何かの拍子に引っかかり
王子はドテンと転びました
よく見ると膝から血が出ています
あいたたたと苦い顔をしていると
テンがそこにやって来て
持っていたハンカチを膝に当て
血を拭いてあげました
王子は何のつもりだと怒鳴りましたが
テンはニコっと笑い
ばい菌が入ったら大変だもん、と
その日を境に王子はどうしてなかなか
調子の悪い悪戯ばかり
早く諦めさせようと思っても
なんだか心を締め付けられて
中途半端な結果ばかりに
それに加えて自分が怪我する度
助けてくれるテンに
もやもやと感じたことのない
不思議な気持ちになりました
だけど強がりな王子は素直になれず
相変わらず村の皆を困らせたり
花を折ったり、畑を荒らしたり
悲しそうな顔をするテンを見る度
後ろめたい気持ちを隠しては
わっはっはと笑って見せました
そんなある夜中、王子が目を覚ますと
外がなんだか騒がしいのです
なんのつもりだと窓の外を覗くと
そこには耐えかねた村の皆が
各々の武器を手に迫って来ます
これは困ったと王子は
テンを起こし裏口から逃げ出しました
手錠で半ば引っ張られる様なテン
どれだけ走ったでしょうか?
大きな木の下で息を切らす二匹の兎
王子は走ったせいで傷だらけ
するとテンが手当をしてくれました
あの時と同じ様に、優しく温かく
自分だって怪我してるのに
なんて自分は情けないんだろう
ありがとう、言わなくちゃ
そう思った時
「いたぞ!あそこだ!」
と言う声と共に村の者たちが
あっという間に囲まれていました
皆の怒りはとても激しくて
傷だらけのテンを見ると
さらにその怒りは大きくなりました
今にも飛び掛られそうな空気の中
「負けだ、俺の負けだ」
ついに、王子は負けを認めたのです
そして、自分を許してくれなくても
憎み続けても構わないから
せめて手錠を外すまで
それまで暴力を振るわないでくれと
テンを傷つけたくないんだと
涙ながらにお願いしました
村の皆も確かにテンの事を考えると
今石を投げたりは出来ないと思い
王子から離れました
王子は振り向いてテンを見ました
するとテンが言いました
「良かった、王子様、変われたね」
そう言ったと思うと
膝から崩れ落ちる様に
テンはその場に倒れ込みました
王子は間一髪受け止めて
はっとしました
テンの手錠が既に外れているのです
鍵なんか無いはず
あれだけ突然飛び出したのだから
テンの腕を見ると
その腕はとても細く
気付けば最初から手錠なんか
はまっていなかったんじゃないのか
じゃあ
じゃあなんで
怪我なんかする必要ないじゃないか
引っ張られたり
転んだり
今だってこんなに傷だらけになって
「王子様?お願い、聞いてくれる?」
テンが途切れ途切れになりながら
その目はまっすぐに王子を見つめて
こくこく、頷く王子
テンはカバンの中から
一枚の紙を出して
王子に渡しました
そしてにっこり、笑うと
ねむる様に目を閉じました
王子は言葉を無くし
その場に伏せると
わんわん泣きました
殺してくれ、と頼み
ありがとう、すら言えなかった事を
死ぬほど後悔しました
その姿を見た皆も辛くなり
その場を去りました
涙でぼやける視界に
写ったまる文字
テンの書いたお願いは
*
皆と仲良くするのが怖かったら
大声で叫んで欲しい。
すぐ隣に居るんだって
知らせて欲しい。
震えた体で誰かと抱き合って
1人じゃないと
教えてもらって欲しい。
すぐに笑えなくたっていい。
だって、ずっとその体で生きてきたんでしょ?
なら平気、だからこそ平気。
*
その日を境に王子は変わり
テンに言えなかったありがとうと
テンのお願いを守るために
誰よりも優しい王子様になりました
その右腕には
外される事なく
相手のない片方を垂らした
手錠をぶらさげて
ぱたん。
黒い兎は言いました
「手錠、外れてたんだね。それも最初から。なんだか切ない。」
白い兎も頷くと最後のページの
片方が垂れ下がり
片腕にだけはめられた手錠を眺めて
王子様の気持ちを考えました
1人だけの戦いみたいにしたくなくて
でも約束なんてものにしたら
まるでその瞬間最後が訪れるみたい
だから、教わった優しくする事は
まだここにあるよ、って
何度だって呼ぶんだ、って
最後なんてこない様に
この本みたいに手錠をしたら
どんなに大変だろうと二匹は話し
試しに紐で黒い兎の腕を結び
自分の腕は持つだけで結ばないで
繋がれてみました
どこに行くにもお互いに
動かないといけない
トイレだって食事だって
何から何まで一緒で、せーので
それに意外にも白い兎の
持っているだけだと
気が抜けず大変
ものの一二時間で
二匹はヘトヘトに
白い兎はあまりの苦労に
疲れてしまい眠くなりました
持っていた紐を離すと
「疲れちゃったね、おしまいにして寝よう」
と布団に向かいました
白い兎が潜るに続いて
黒い兎も布団の中へ
白い兎が黒い兎の手に
紐が付いたままなのに気付き
もう外していいんだよ?と言いました
すると黒い兎はその紐の片方を
白い兎の腕に結びつけました
白い兎は訳が分からず
どうしたのか聞くと
たった一言
「終わりまで白い兎といたい。」
ああ、きっと王子様の様に
1人になりたくなかったんだなと
白い兎は思わずふふっと笑うと
その手をぎゅっと握りました
早すぎる世界で
はぐれないように
何を引き換えにしても
ずっと一緒
白い兎と黒い兎
二匹を結ぶ、真っ赤な紐
2012
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
今日も二匹に一冊の絵本
題名は「コウモリウタ」
ある村に住む一匹の兎
大勢の前に出るのがとっても苦手
周りの皆がおはようって挨拶しても
俯いてごもごも、もじもじ
初めは皆も優しくて
何度も挨拶したり声をかけたけど
そのたんびに下を向くので
段々皆も変わってしまった
面白半分に声をかけて
耳元で大きな声で
「聞こえてますかー?」
彼の周りを囲んでは
しゃがみ込む彼をからかいました
いつしか皆は彼の事を
皮肉混じりにこう呼びました
「きょど」って
そんなきょどにはただ唯一
話せる相手がいました
それは村のはずれに住む
こうもりお婆さん
こうもりと言っても兎
いつも布を頭からかぶり
手を広げた姿がこうもりみたい
村の皆はそれをみて
こうもりお婆さんと呼びました
「ばあちゃん!ばあーちゃん!」
ドアを開けるなりきょどは
こうもりお婆さんに飛びつきました
「なんだい、聞こえてるよ、もう。
どうしたんだい?何か良いことでもあったんかい?」
お婆さんは言いました
「何いってるんだよ、良いことがあったら涙なんか流すもんか。」
涙を、いっぱいに貯めて
きょどは怒鳴りました
あーでもないこーでもない
きょどは思いのままに
喉がからからになるまで
あったことを話しました
それをお婆さんはただ、椅子に座って
うんうんと聞き続けました
やがて話疲れて
きょどはその場にぺトン
お婆さんはきょどを抱き上げると
お膝に乗せて、頭を撫でました
そして優しく歌うのです
まるで子守唄のように優しい声
*あで始まる言葉はなーに?
それはあなたが迎える朝
ありがとうって言ってあげよう
赤いほっぺに 甘い飴玉
新しい靴で歩いてみたら
青空が挨拶してくれた
明日の朝にまた会えたなら
挨拶くれた青空に
ありがとうって言ってあげよう
いっつも歌ってくれるその歌が
きょどはとっても大好きです
何度も歌ってくれるその歌を
一緒に口ずさむと褒めてくれて
あんたは本当に綺麗な声だねって
誰にも歌うことはできなくても
お婆さんだけが聞いてくれたら
それで褒めてくれたら
きょどはそれで満足でした
きょどはお婆さんを見上げると
「なんでいつも布被ってるの?
皆こうもりだなんて呼んでるよ?」
お婆さんは柔らかい表情のまま
きょどを布の中に引き寄せると
「内緒の内緒のおまじないさね」
ニコッと笑って、ぎゅっと抱きしめて
全てを隠すような布の中で
きょどは両手を広げてみました
薄暗い明るみから見える世界は
ぼやっとした曖昧な景色で
でも手に触れるものは凄く確か
そこはまるで夢の中のようで
同時に不思議な気持ちになりました
それからしばらく時間を過ごし
夕暮れで帰る時にお願いをしました
「ねえ、僕にも布ちょうだい!」
優しく微笑みお婆さんは言いました
「あんたが大人になる前に」
それから幾月か経って
相変わらず、きょどはもごもご
そのたんびに泣きついて
それもまた相変わらず
お婆さんも優しく微笑み
いつものように歌を聞かせて
ただその声は日に日に弱弱しく
抱きしめる腕は細く痩けてしまい
それは、自然ときょどを焦らせました
きっと僕が変わらないから
お婆さんを疲れさせてしまって
だから皆の前で話せるようになって
安心してもらえば元気にまたなると
そんな風に思っていました
そんなある日
きょどはお婆さんが倒れたのを知り
急いで駆けつけました
たいした事はないさね、と
お婆さんはきょどを不安にさせぬよう
無理に笑ってみせました
きょどにはその笑顔が辛すぎて
まともに顔を見れませんでした
お婆さんは一枚の手紙をきょどに渡し
ポストに入れてくれと頼みました
それと、もう一つお手伝いを頼み
手伝ってくれたら布をあげると
約束してくれました
手紙をポストに出して数日
村の掲示板に張り出されたのは
お婆さんがパーティーを開く
そんな内容のポスターでした
お婆さんに聞いたら
昔はよくパーティーを開いてた事
あの歌を一緒に歌いたいと言う事で
普段なら断るきょども
この機会だけは避けてはダメだと
なんだかそんな風に感じたのでした
それからというもの
お部屋の飾り付けやご馳走の準備
歌の練習にと大忙し
あっという間にパーティー当日です
緊張で落ち着かないきょどを横目に
変わらぬ様子でお婆さんは
椅子に腰掛けていました
きょどを膝の上に呼ぶと
布の中に招き入れ
静かに話し始めました
「隠す事で見せれる物があるとしたら
あんたは、沢山良い所があるんだ。
その為なら隠してしまえばいい。
この布はね、あたしがあんたと同じ
わけも無く怖がってた頃にね
教えてくれたおまじないなんだよ。」
まさかこんなに長くかぶり続けるとは思ってなかったけどね
と照れくさそうに笑うと
きょどの頭を優しく撫でました
そして、手伝いをしてくれたので
パーティーが終わったら
布をあげると約束しました
きょどとお婆さんは
パーティーが始まるまでの間
沢山のお話をしました
子供の頃の話や
布を被った時の気持ち
お互いの事
どれも、新鮮で
きょどは普段どれだけ自分の事しか
話していないかに気づいて
ちょっぴり恥ずかしかなりました
お婆さんは少し眠くなって
ちょっと休むよと、こくりこくり
きょどはいつものお礼に
歌を歌ってあげました
優しく響くその歌声は
お婆さんの心に染み入るようで
本当にあんたの歌は素敵だと
幸せそうにお婆さんは目を閉じました
やがて、パーティーの時間がせまり
お婆さんを起こそうときょどは
その手を掴むと
冷たく
力無く
一つの終わりがそこにありました
信じられない位幸せな顔は
全てに満足しているかのようでした
きょどはそれを見て決心しました
次々と家に来てくれる村の皆
椅子に座ったまま動かないお婆さん
きょどはその中に入ったまま
お婆さんの代わりに挨拶をしたのです
「今日はありがとう」
「ようこそ、来てくれました」
「楽しんで行ってね」
普段なら口にするのが怖いはず
でもなんでか自然に話せるのです
食事も終わり
やがて歌の出番に
ろうそくの火が灯り
椅子に座るお婆さんが
ほのかに照らされました
布に覆われて俯くお婆さん
皆が注目したその時
お腹らへんから手が広がるように
横に布が広がると
お婆さんのシルエットの中に
小さな子供の影が重なりました
驚く声
怖くなり逃げ出す兎達
ドアに手をかけたその時
「待ってください、お願いします」
きょどの声で皆が振り返ります
きょどは布の中から話し続けました
驚かせてしまった事
皆がきょどと呼んでる兎だと言う事
そして、お婆さんが死んでしまった事
あぜんとする皆にきょどは
「こうもりお婆さんは言いました。
隠す事で見せれる事があると。
布に隠しておまじない。
布から見える世界は
やっぱり薄暗く曖昧で、
でも、不思議と話すのが怖くない。
教えてくれたお婆さんの為に
褒めてくれた歌を歌います。」
静まり返る中
広がるように響く歌声
天にまで届く様に
きょどは歌いました
*あで始まる言葉はなーに?
それはあなたが迎える朝
ありがとうって言ってあげよう
赤いほっぺに 甘い飴玉
新しい靴で歩いてみたら
青空が挨拶してくれた
明日の朝にまた会えたなら
挨拶くれた青空に
ありがとうって言ってあげよう
会えなくなったあなたにも
ありがとうをあげましょう
愛してくれてありがとう
あなたに会えてありがとう
その歌声に皆が涙しました
鳴り止まない拍手の中
きょどが見た布から見える世界は
キラキラと輝いていました
こうして、きょどと呼ばれた
一匹の兎はその後
村の皆と仲良く暮らし
その兎の歌うあの歌は
こうもりお婆さんの歌という意味と
子守り歌の様に優しいメロディーで
「コウモリウタ」
そう呼ばれたという事です。
ぱたん。
静かに閉じた絵本に零れる涙
止まらぬ涙に気づかぬ位
こころを痛めたのは黒い兎
黒い兎ときょどは実は似ていて
共感する昔を思い出して
涙を流しました
黒い兎の過去を白い兎は知っていて
心配になりました
どうしたの?なんて聞いたりしたら
思い出話を始めて
きっとしばらく落ち込んでしまう
白い兎に出会ってから
普段気にしない様なそぶりだけども
本当はとっても心が弱い事を
よく知っていたので
その姿はまるで布を被った時の
それと同じでした
白い兎はベットから毛布を持ち出して
自分の上から被り
黒い兎を後ろから包み込みました
こうもりお婆さんがきょどを
布の中に招いた時のように
後ろからぎゅっと抱きしめて
「隠してしまえばいい。
あなたは沢山良い所があるんだから。
それでも思い出すなら、沢山泣いて。
全部、あたしが隠してあげるから。」
涙の布に覆われた目に映る
白い兎の顔がはっきり見えるまで
黒い兎は沢山泣きました
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
二匹はいつも一緒
今日も二匹に一冊の絵本
題名は「コウモリウタ」
ある村に住む一匹の兎
大勢の前に出るのがとっても苦手
周りの皆がおはようって挨拶しても
俯いてごもごも、もじもじ
初めは皆も優しくて
何度も挨拶したり声をかけたけど
そのたんびに下を向くので
段々皆も変わってしまった
面白半分に声をかけて
耳元で大きな声で
「聞こえてますかー?」
彼の周りを囲んでは
しゃがみ込む彼をからかいました
いつしか皆は彼の事を
皮肉混じりにこう呼びました
「きょど」って
そんなきょどにはただ唯一
話せる相手がいました
それは村のはずれに住む
こうもりお婆さん
こうもりと言っても兎
いつも布を頭からかぶり
手を広げた姿がこうもりみたい
村の皆はそれをみて
こうもりお婆さんと呼びました
「ばあちゃん!ばあーちゃん!」
ドアを開けるなりきょどは
こうもりお婆さんに飛びつきました
「なんだい、聞こえてるよ、もう。
どうしたんだい?何か良いことでもあったんかい?」
お婆さんは言いました
「何いってるんだよ、良いことがあったら涙なんか流すもんか。」
涙を、いっぱいに貯めて
きょどは怒鳴りました
あーでもないこーでもない
きょどは思いのままに
喉がからからになるまで
あったことを話しました
それをお婆さんはただ、椅子に座って
うんうんと聞き続けました
やがて話疲れて
きょどはその場にぺトン
お婆さんはきょどを抱き上げると
お膝に乗せて、頭を撫でました
そして優しく歌うのです
まるで子守唄のように優しい声
*あで始まる言葉はなーに?
それはあなたが迎える朝
ありがとうって言ってあげよう
赤いほっぺに 甘い飴玉
新しい靴で歩いてみたら
青空が挨拶してくれた
明日の朝にまた会えたなら
挨拶くれた青空に
ありがとうって言ってあげよう
いっつも歌ってくれるその歌が
きょどはとっても大好きです
何度も歌ってくれるその歌を
一緒に口ずさむと褒めてくれて
あんたは本当に綺麗な声だねって
誰にも歌うことはできなくても
お婆さんだけが聞いてくれたら
それで褒めてくれたら
きょどはそれで満足でした
きょどはお婆さんを見上げると
「なんでいつも布被ってるの?
皆こうもりだなんて呼んでるよ?」
お婆さんは柔らかい表情のまま
きょどを布の中に引き寄せると
「内緒の内緒のおまじないさね」
ニコッと笑って、ぎゅっと抱きしめて
全てを隠すような布の中で
きょどは両手を広げてみました
薄暗い明るみから見える世界は
ぼやっとした曖昧な景色で
でも手に触れるものは凄く確か
そこはまるで夢の中のようで
同時に不思議な気持ちになりました
それからしばらく時間を過ごし
夕暮れで帰る時にお願いをしました
「ねえ、僕にも布ちょうだい!」
優しく微笑みお婆さんは言いました
「あんたが大人になる前に」
それから幾月か経って
相変わらず、きょどはもごもご
そのたんびに泣きついて
それもまた相変わらず
お婆さんも優しく微笑み
いつものように歌を聞かせて
ただその声は日に日に弱弱しく
抱きしめる腕は細く痩けてしまい
それは、自然ときょどを焦らせました
きっと僕が変わらないから
お婆さんを疲れさせてしまって
だから皆の前で話せるようになって
安心してもらえば元気にまたなると
そんな風に思っていました
そんなある日
きょどはお婆さんが倒れたのを知り
急いで駆けつけました
たいした事はないさね、と
お婆さんはきょどを不安にさせぬよう
無理に笑ってみせました
きょどにはその笑顔が辛すぎて
まともに顔を見れませんでした
お婆さんは一枚の手紙をきょどに渡し
ポストに入れてくれと頼みました
それと、もう一つお手伝いを頼み
手伝ってくれたら布をあげると
約束してくれました
手紙をポストに出して数日
村の掲示板に張り出されたのは
お婆さんがパーティーを開く
そんな内容のポスターでした
お婆さんに聞いたら
昔はよくパーティーを開いてた事
あの歌を一緒に歌いたいと言う事で
普段なら断るきょども
この機会だけは避けてはダメだと
なんだかそんな風に感じたのでした
それからというもの
お部屋の飾り付けやご馳走の準備
歌の練習にと大忙し
あっという間にパーティー当日です
緊張で落ち着かないきょどを横目に
変わらぬ様子でお婆さんは
椅子に腰掛けていました
きょどを膝の上に呼ぶと
布の中に招き入れ
静かに話し始めました
「隠す事で見せれる物があるとしたら
あんたは、沢山良い所があるんだ。
その為なら隠してしまえばいい。
この布はね、あたしがあんたと同じ
わけも無く怖がってた頃にね
教えてくれたおまじないなんだよ。」
まさかこんなに長くかぶり続けるとは思ってなかったけどね
と照れくさそうに笑うと
きょどの頭を優しく撫でました
そして、手伝いをしてくれたので
パーティーが終わったら
布をあげると約束しました
きょどとお婆さんは
パーティーが始まるまでの間
沢山のお話をしました
子供の頃の話や
布を被った時の気持ち
お互いの事
どれも、新鮮で
きょどは普段どれだけ自分の事しか
話していないかに気づいて
ちょっぴり恥ずかしかなりました
お婆さんは少し眠くなって
ちょっと休むよと、こくりこくり
きょどはいつものお礼に
歌を歌ってあげました
優しく響くその歌声は
お婆さんの心に染み入るようで
本当にあんたの歌は素敵だと
幸せそうにお婆さんは目を閉じました
やがて、パーティーの時間がせまり
お婆さんを起こそうときょどは
その手を掴むと
冷たく
力無く
一つの終わりがそこにありました
信じられない位幸せな顔は
全てに満足しているかのようでした
きょどはそれを見て決心しました
次々と家に来てくれる村の皆
椅子に座ったまま動かないお婆さん
きょどはその中に入ったまま
お婆さんの代わりに挨拶をしたのです
「今日はありがとう」
「ようこそ、来てくれました」
「楽しんで行ってね」
普段なら口にするのが怖いはず
でもなんでか自然に話せるのです
食事も終わり
やがて歌の出番に
ろうそくの火が灯り
椅子に座るお婆さんが
ほのかに照らされました
布に覆われて俯くお婆さん
皆が注目したその時
お腹らへんから手が広がるように
横に布が広がると
お婆さんのシルエットの中に
小さな子供の影が重なりました
驚く声
怖くなり逃げ出す兎達
ドアに手をかけたその時
「待ってください、お願いします」
きょどの声で皆が振り返ります
きょどは布の中から話し続けました
驚かせてしまった事
皆がきょどと呼んでる兎だと言う事
そして、お婆さんが死んでしまった事
あぜんとする皆にきょどは
「こうもりお婆さんは言いました。
隠す事で見せれる事があると。
布に隠しておまじない。
布から見える世界は
やっぱり薄暗く曖昧で、
でも、不思議と話すのが怖くない。
教えてくれたお婆さんの為に
褒めてくれた歌を歌います。」
静まり返る中
広がるように響く歌声
天にまで届く様に
きょどは歌いました
*あで始まる言葉はなーに?
それはあなたが迎える朝
ありがとうって言ってあげよう
赤いほっぺに 甘い飴玉
新しい靴で歩いてみたら
青空が挨拶してくれた
明日の朝にまた会えたなら
挨拶くれた青空に
ありがとうって言ってあげよう
会えなくなったあなたにも
ありがとうをあげましょう
愛してくれてありがとう
あなたに会えてありがとう
その歌声に皆が涙しました
鳴り止まない拍手の中
きょどが見た布から見える世界は
キラキラと輝いていました
こうして、きょどと呼ばれた
一匹の兎はその後
村の皆と仲良く暮らし
その兎の歌うあの歌は
こうもりお婆さんの歌という意味と
子守り歌の様に優しいメロディーで
「コウモリウタ」
そう呼ばれたという事です。
ぱたん。
静かに閉じた絵本に零れる涙
止まらぬ涙に気づかぬ位
こころを痛めたのは黒い兎
黒い兎ときょどは実は似ていて
共感する昔を思い出して
涙を流しました
黒い兎の過去を白い兎は知っていて
心配になりました
どうしたの?なんて聞いたりしたら
思い出話を始めて
きっとしばらく落ち込んでしまう
白い兎に出会ってから
普段気にしない様なそぶりだけども
本当はとっても心が弱い事を
よく知っていたので
その姿はまるで布を被った時の
それと同じでした
白い兎はベットから毛布を持ち出して
自分の上から被り
黒い兎を後ろから包み込みました
こうもりお婆さんがきょどを
布の中に招いた時のように
後ろからぎゅっと抱きしめて
「隠してしまえばいい。
あなたは沢山良い所があるんだから。
それでも思い出すなら、沢山泣いて。
全部、あたしが隠してあげるから。」
涙の布に覆われた目に映る
白い兎の顔がはっきり見えるまで
黒い兎は沢山泣きました
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
2012
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
今日も二匹の元に一冊の絵本が届きました
題名は「ナゲヤリンネ」
ある一匹の兎が歩いていました
てくてく、てくてく
道に一枚の紙とえんぴつが落ちていました
兎は空の絵を描き始めました
青い空は動かないけれども
見上げる度に動く雲が、うまく描けなくて
めんどくさくなって草むらに、ぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道に一本の笛と楽譜が落ちていました
兎は譜面を見ながらその曲を吹き始めました
ドレミファソラシドは読めるけれども
流れるメロディーには、うまくリズムが合わなくて
めんどくさくなって草むらに、ぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道にジグソーパスルと出来上がりの写真が落ちていました
兎は写真を見ながらジグソーパズルを組み立て始めました
写真をみれば組み立てるのは簡単だけれど
隙間が減る度に、次のピースは見つかりづらくて
めんどくさくなって草むらにぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道に一匹の兎が木の下で何かを思いつめていました
兎は尋ねました
「こんなところで何をしている?」
木からのそのそと現れて兎は言いました
「めんどくさいことを投げ出そうと思ってね」
言葉の意味はそのまんまでわかるけれど
何をするのかはその兎の事なので分からなくて
めんどくさくなって無視をしてぽいっ
すっかり忘れようと思っても気にかかって仕方なく
兎が木の元に戻ると
道にはぐったりとして、目をとじたままの兎がいました
兎は駆け寄って肩を揺らしてみました
死んでしまっているのは見ればすぐ分かるけれども
過ぎてしまった今のままでは、どうしてこうなったのか分からなくて
兎はめんどくさがった自分を涙と一緒に、ぽいっ
ようやくできあがったみたい
ある兎が一匹、歩いていました
てくてく、てくてく
道には一つのお墓と、枯れた花が一厘落ちていました
兎は傍の花を摘むとお墓に備えてあげました
お墓には何か書いてあり
なげやった命は拾えない、は読めるけれども
時間が経ってしまった文字は、うまく読めず
めんどくさくなってお墓に花を、ぽいっ
こうして兎は歩き続けていきました
終わることなく
てくてく、てくてく
それもまたなげだされた、終わらないなげやり
パタン
二匹は本を閉じてしばらくは心がもやもやして
窓の外の景色と同じような曇り空でした
白い兎が気を紛らわそうと、紅茶を入れに立ち上がると
外で大きな音と激しいケンカの声がして、思わずしゃがみこんで
ぶるぶる震えて動けなくなってしまいました
黒い兎が大慌てで玄関を開けてみると
向かいのおじさん夫婦が大ゲンカをしていました
よくある事ではあったけれども、お人よしの黒兎はいてもたってもいられなくなり
二匹の元に行って、ケンカを止めに入りました
黒い兎のおかげもあって、ケンカはすぐにおさまり
白い兎もようやく安心して、黒い兎の元に駆け寄ってきました
黒い兎は聞きました
「何度もケンカばかりして。なげやりに相手を傷つけるような事してどうしてですか?」
おじさん夫婦は頭をかきながら恥ずかしそうに言いました
「ケンカは悪いことかもしれん。でもな、それが老夫婦の証のなんじゃろな」
心がちゃんと相手を見ているから、すれ違う
一緒なんて事は誰にもありえないのだから
文句もでないようでは、もう相手を見ていないようなもの
おじさんはそう言いながら、迷惑かけた事を謝りました
二匹の老夫婦からなげやりにしない事の形を知って
黒い兎は思ったのです
いつか年をとって
それでも、傍にいてくれて
にっこり笑ってくれる君の目が
投げ出して遠い先じゃなくて
しっかりと僕の姿を見てくれていますように
怒られるのは苦手だけれども
それでも投げ出していなくなりませんように
投げ出し続ける世界の中で、けしてその距離が離れないように
強く手を握るのです
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
二匹はいつも一緒
今日も二匹の元に一冊の絵本が届きました
題名は「ナゲヤリンネ」
ある一匹の兎が歩いていました
てくてく、てくてく
道に一枚の紙とえんぴつが落ちていました
兎は空の絵を描き始めました
青い空は動かないけれども
見上げる度に動く雲が、うまく描けなくて
めんどくさくなって草むらに、ぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道に一本の笛と楽譜が落ちていました
兎は譜面を見ながらその曲を吹き始めました
ドレミファソラシドは読めるけれども
流れるメロディーには、うまくリズムが合わなくて
めんどくさくなって草むらに、ぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道にジグソーパスルと出来上がりの写真が落ちていました
兎は写真を見ながらジグソーパズルを組み立て始めました
写真をみれば組み立てるのは簡単だけれど
隙間が減る度に、次のピースは見つかりづらくて
めんどくさくなって草むらにぽいっ
もうちょっとでできあがりなのに
兎はすっかり忘れて歩き続けました
てくてく、てくてく
道に一匹の兎が木の下で何かを思いつめていました
兎は尋ねました
「こんなところで何をしている?」
木からのそのそと現れて兎は言いました
「めんどくさいことを投げ出そうと思ってね」
言葉の意味はそのまんまでわかるけれど
何をするのかはその兎の事なので分からなくて
めんどくさくなって無視をしてぽいっ
すっかり忘れようと思っても気にかかって仕方なく
兎が木の元に戻ると
道にはぐったりとして、目をとじたままの兎がいました
兎は駆け寄って肩を揺らしてみました
死んでしまっているのは見ればすぐ分かるけれども
過ぎてしまった今のままでは、どうしてこうなったのか分からなくて
兎はめんどくさがった自分を涙と一緒に、ぽいっ
ようやくできあがったみたい
ある兎が一匹、歩いていました
てくてく、てくてく
道には一つのお墓と、枯れた花が一厘落ちていました
兎は傍の花を摘むとお墓に備えてあげました
お墓には何か書いてあり
なげやった命は拾えない、は読めるけれども
時間が経ってしまった文字は、うまく読めず
めんどくさくなってお墓に花を、ぽいっ
こうして兎は歩き続けていきました
終わることなく
てくてく、てくてく
それもまたなげだされた、終わらないなげやり
パタン
二匹は本を閉じてしばらくは心がもやもやして
窓の外の景色と同じような曇り空でした
白い兎が気を紛らわそうと、紅茶を入れに立ち上がると
外で大きな音と激しいケンカの声がして、思わずしゃがみこんで
ぶるぶる震えて動けなくなってしまいました
黒い兎が大慌てで玄関を開けてみると
向かいのおじさん夫婦が大ゲンカをしていました
よくある事ではあったけれども、お人よしの黒兎はいてもたってもいられなくなり
二匹の元に行って、ケンカを止めに入りました
黒い兎のおかげもあって、ケンカはすぐにおさまり
白い兎もようやく安心して、黒い兎の元に駆け寄ってきました
黒い兎は聞きました
「何度もケンカばかりして。なげやりに相手を傷つけるような事してどうしてですか?」
おじさん夫婦は頭をかきながら恥ずかしそうに言いました
「ケンカは悪いことかもしれん。でもな、それが老夫婦の証のなんじゃろな」
心がちゃんと相手を見ているから、すれ違う
一緒なんて事は誰にもありえないのだから
文句もでないようでは、もう相手を見ていないようなもの
おじさんはそう言いながら、迷惑かけた事を謝りました
二匹の老夫婦からなげやりにしない事の形を知って
黒い兎は思ったのです
いつか年をとって
それでも、傍にいてくれて
にっこり笑ってくれる君の目が
投げ出して遠い先じゃなくて
しっかりと僕の姿を見てくれていますように
怒られるのは苦手だけれども
それでも投げ出していなくなりませんように
投げ出し続ける世界の中で、けしてその距離が離れないように
強く手を握るのです
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒