2012
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
今日も二匹に一冊の絵本が届きました
題名は「スナ二ネガイヲ」
小さな小さな村に住むお婆ちゃん兎がまだ子供の頃のお話です
その村に一匹の魔法使いがやってきました
とっても背の高い帽子をかぶって
立派な黒いマントをひるがえし
風になびくブロンドの髪に青い目
少年のあどけなさの残る魔法使い
「この村でいっか。ま、どうせどいつもこいつも一緒だろうしな」
皮肉気味ににやりと笑って
マントにくるりと身を隠すと
まるで消えるように一瞬で村に移動しました
村に着くと魔法使いは周りをぐるりと回ると一軒の家の前にやってきました
扉のチャイムをいたずら気味に
チリン、チリリリン、チリリリリリ
扉が壊れそうな勢いで開いて
慌てた顔をした兎が出てきました
「なんだなんだ、何かあったのか?」
キョロキョロ見渡すとそこには魔法使いが
「坊やかい?呼んだのは?」
ほっとした顔をして、兎は聞きました
「ああ、俺様だ。お前の願いを叶えにきてやった」
鼻をふふんと軽く鳴らすと魔法使いは言いました
「願い?ほほー、それはありがたいな。そんならお金もちにしてくれるかい?坊やには難しいお願いしちゃったか。」
突然来た魔法使いを信じるわけもなく、兎は魔法使いをからかうような口ぶりで答えました
魔法使いはにやりと笑うと
「本当にそれでいいんだな?後悔しないな?」
と兎に尋ねました
兎は、ははは、と笑い魔法使いの頭を撫でると、よろしく頼むよ、と言い家の中に帰って行きました
しかし、明くる日兎が起き上がると。
まあ、びっくり
家の中にあふれんばかりの金貨
引き出しの中からも冷蔵庫の中からも
昨日飲み残したグラスの中にまで
兎は魔法使いの事を思い出し、心から喜びました
そうして、兎はその日ありとあらゆるものを金貨で買って帰り
こんな日々が毎日続くのだと高笑いでお酒のビンを抱いて眠りにつきました
次の日の朝が来て、目を覚ました兎が寝返りをうつと
頬をざらざらとしたものが触れました
何かと思い、目をごしごしとこすると、目の中にそれは入り込みチクっと刺すようなような痛みに襲われました
驚いてよく見てみるとそれは灰色に鈍く光る砂でした
そしてそれが昨日の金貨であると気づいたのは部屋中に舞う砂の山を見た後の事でした
今に昨日買った店の主人達にばれたら大変な事になる
そう思った兎は荷物も持たず部屋を飛び出しました
後ろも振り返らず村から逃げて行く後ろ姿を見て
魔法使いはお腹を抱えて大笑い
「ざまあみろ、くだらない願い事するからだ。子供扱いしたのも気に食わないんだよ」
それからも魔法使いは反省する事はもちろんなく、他の家のチャイムを
チリリリリリ、チリリン
チリ、チリン、チリリリン
ある兎は一生無くならないほどのフルコース料理が食べたいと願いました
次の日に美味しいフルコースを目の前に次から次へと口の中に放り込んだ兎でしたが
日がまた変わり、苦しくて目を覚まして、砂に変わった料理を目にすると
自分のお腹の中の事も何もかもに気づいて、泡を吹いて気を失いました
またある兎は大きな城が欲しいと願いました
望み通りの大きな城を手に入れましたが、それもまた砂の城
崩れ落ちた砂の山を前に、声も出ませんでした
魔法使いは言いました
「あー、面白い。次はどいつを困らせようかな」
勢いよくチャイムを鳴らします
チリン、チリリン、チリリリリリ
ドアが静かに開くと小さな女の子兎が一匹現れました
ちっ、ハズレか。と魔法使いは舌打をしました
「あの。何か御用でしたか?」
おびえ気味に女の子兎は尋ねました
魔法使いが家の中を覗き込んだ様子では、ここにはこの子以外に誰も住んでいないようです
仕方なく聞くだけ聞いてみようと
魔法使いは女の子兎に言いました
「お前の願いを俺がひとつ叶えてやろう、さぁ、何でもいいな」
どうせ大した願いもでてこないだろうと、耳の穴に小指を入れて適当に聞いてるふりをすると
「私の願いは、とっても小さなものだから。なら、魔法使いさんが次の願い事を叶えて心から感謝されますように。ってお願いします」
魔法使いは今までこんなことが無かったので慌ててしまいました
そして、なんとかこの兎の願い事を聞き出そうとして
お菓子を出してみたり、お金を出してみたり、美味しそうな料理をだしてみたりと
兎の気を引きましたが
女の子兎は家の中からクッキーを一枚取り出して、魔法使いに握らせて言いました
「簡単にポンポンだせるのは素敵だと思うけど、良かったらこういう手作りクッキーもどうぞ」
と、軽く微笑むと家の中に帰って行きました
魔法使いの手には手作りのクッキーと、砂に変わったお菓子達
なんだかとても切なくて、もどかしい気持ちになりました
それから何度も女の子兎の家の前を通っては様子を眺めては
一匹でおうちの中で生活をするその姿を見ていました
そんなある日、魔法使いがいつものように家の中を覗くと
女の子兎の姿がありません
どこに行ったのか気になり、そばに住む兎に聞いてみると
なんででも昔から女の子兎は心臓が悪く、今朝になってあまりに苦しくて倒れてしまったらしいのです
医者が言うにはもう何日も生きられないと言う話だ、ということでした
魔法使いは急いで病院に向かうと女の子兎を見つけ
「いますぐ命が欲しいといえ、お前の願いだってなれば叶えてやれる」
と、医者の手を振り切って、耳元で怒鳴りました
女の子兎は穏やかな表情で
「私の命なんてとっても小さいものだから。願い事なんてものにはならないよ。」
と言いました
魔法使いは初めて自分の無力さに気づき泣きながら、こうお願いしました
「だって。だって。クッキーうまかったんだ。誰かに何かしてもらったの初めてで。だから俺はまたお前のクッキーを食べたいんだ。いや、本当に言いたいのははそうじゃなくて。あー、お願いだ、死なないでくれ。あ、そうだ、お前の願いも叶えてないし、俺の願いも叶ってない。だから俺はお前を死なせたりしない」
そういうと、魔法使いは女の子兎が願うのを無視して魔法を唱えました
すると魔法使いの体がみるみるうちに砂になり
するすると吸い込まれるように小さくなっていくと
やがて小さな光となり、女の子兎の心臓に近づいていきました
それは良く見ると砂時計のようでした
女の子兎の体の中に包まれるように入り込むと
心の中のほうから声が聞こえてきました
「お前はこれでまだ死なない。無視して願いを叶えたから砂時計の砂が落ちきったら俺も死ぬ。それまで俺がここでお前を守っていく。だからもう小さくないと思え。お前の命は俺の命と一緒だからな。俺の命はおっきいんだ。」
本音が言えない事に魔法使いは後悔をしましたが、その気持ちはちゃんと女の子兎に伝わり
奇跡的に命を取り戻した女の子兎は、願いどおり心から感謝を魔法使いに。
それからは幸せにいつまでもいっしょ暮らしました
村でもそれからというもの、砂時計の砂が落ちきるまでに願い事を唱えると幸せになれる、という噂が広まったのです
ぱたん
白い兎と黒い兎は願い事について考えてみました
「んー。願い事って叶わないから願い事って思ってた」
黒い兎がそういうと、白い兎はたとえば?と尋ねました
黒い兎が言うには羽が欲しい、とか、海を自由に泳ぎたい、とか
ようするに不可能なことを言うのでした
逆に白い兎は言いました
「んー。私はなんだかドキドキするのがお願いって感じするけど?」
といい、どんなことかというと
明日は晴れますように、とか、誰々と仲良くなれますように、とか
ようするに結果がちゃんと出るものを言うのです
二匹の願い事の考えも分かったところで
白い兎ははっと思いついたように椅子から立ち上がりました
そして戻ってきたその手には砂時計が握られてました
「ねぇ、願い事してみない?」
黒い兎は大賛成で机の上に砂時計をセットしました
白い兎はニコニコ顔を覗くと
「準備いい?いくよ!」
と勢いよく砂時計をひっくり返しました
突然のことだったので、黒い兎はまだお願い事が決まりきらなくてあたふたあたふた
砂はどんどん落ちていき
やがて全部落ちきってしまいました
何してんの?と白い兎が笑うと、黒い兎もむきになり
すぐに砂時計をひっくり返して
「今度は君の番!」
勢いよく砂時計をテーブルに置きました
白い兎も黒い兎と同じく
突然のことでお願い事が頭の中でごちゃごちゃして決まらなくなって
砂はやっぱり落ちていき
お互い何も言わないまんま
全部落ちてしまいました
二匹は顔を見合わせて
なんでも良いって言われると
なんでも良くなくなって
簡単に口にしてるような、あれが欲しいとか
今だからこそっていう、あれがしたいとか
でも、関係ないねって
砂時計をひっくり返して
二匹で口をそろえて出た言葉は
「ま、いまのまんまでいっか」
白い兎と黒い兎
二匹はいつも一緒
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